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「ぼくたちは何のために日々写真を撮影するのか」
Tøyen sentrum by Line Bøhmer Løkken

「決定的瞬間」という決まり文句は、1952年に出版されたアンリ・カルティエ・ブレッソンの代表作と、のちに訪れたカメラの更なる大衆化とともに加速度的に広まり、現在でも標語のように至る所で使用されている。そのフレーズは写真というメディアの、流れ去る時間を切り取り保存する性質を、良くも悪くも強く印象づけてきた。だが今回紹介する作品集は、そのような写真の在り方とは異なる写真の側面を読者に提示する。

ノルウェー人写真家のライン・ベーマー・ロッケンは、ノルウェーの首都であるオスロの中心部に位置するトゥイエン・センターを3年に渡り撮影した。ロッケンはこの場所について何かを暴き出そうとするのではなく、不思議な空気に包まれたその場所を理解したいという純粋な興味から撮影を開始したという。本書に広がる光景は、まるで初対面の人物が互いを探り合うかのように、適度な距離を模索しているようにも映る。

本作において最も特徴的なのは、冒頭で触れたような記録性を作品の中心に据えるのではなく、このようにカメラという機器それ自体を媒介に、ある種のコミュニケーションが行われているという点だ。もし作者がカメラを持たず、また写真家でもなかったとして、いかにこの場所の探索を行っただろうか。カメラが記録のための道具という役割に縛られることなく、コミュニケーションのためのツールとして機能していることは明白である。

ぼくたちは撮影から発表までを片手で完結する時代に生きている。そんな時代だからこそ、自分にとって写真とは何か、撮影にはどういう意味があるのかを改めて考えてみるのも良いだろう。本書はそのような思考のための良いきっかけとなるかもしれない。

(日日作品集#3 金澤11月号 No.202, November 2019)

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