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「レンズを覗くとき、風景もまたこちらを覗いている。」
Texture of Temperature by Suo

人は圧倒的なスケールの風景や自然現象を前にしたとき、単なる「美しさ」という感情を超えた畏敬の念、「崇高さ」を抱くことがある。カメラの登場以降、あるものは絵画以上にありのままにその崇高さを捉えようとし、またあるものは、視覚をはるかに超越した精密さを駆使することで、未だかつて誰も見たことがないようなイメージを作り上げた。前者はカメラの眼という客観性=神の視点で、「崇高」のイメージを永遠に定着しようとする試みであり、後者は現代における崇高さの概念を拡張する試みであった。

韓国人アーティストのSuoことスオ・リムは、ソウルを凌ぐ数の観光客がバカンスに訪れるという火山島、済州島(チェジュ島)に滞在し、本作の撮影を行った。その荒々しくも神秘的なエネルギーに魅せられたスオは、溶岩の衝突や自然現象により、まるで生物のように表情を変えてきた島の姿を多重露光(一コマ内に写真を重ねて記録する技法)や、反転、合成といった手法を織り交ぜながら表現している。

過剰に加工を施した写真はときに表層的であるとされ批判の対象となるが、驚くべきことに、雄大な済州島の前では、加工された姿ですら自然な光景のように眼に映ってしまう。そこで神の視点を持つのはカメラを携えた人間ではない。太古の昔よりそこに在り、あらゆる営みを見届けてきた済州島が視点を支配し、僕たちはまるで島の記憶そのものを見ているかのような錯覚に陥る。その計り知れないほど巨大なスケールと力強さは、作者であるスオすら悠々と飲み込み、ただただその姿を晒している。この姿を崇高と呼ばずに一体何と呼ぼうか。

年々厳しくなる夏の日差しを避け、部屋で涼みながら思索するにはうってつけの一冊であった。

(日日作品集#2 金澤10月号 No.201, November 2019)

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